2008年3月号掲載 矢野真紀

与えられたこの「命の歌」を
自分なりに大事に育てていかなくちゃと思ったんです


●昨年リリースされたアルバム「BIRTH」の中の1曲「窓」がシングルカットされましたが、どんな気持ちでした?
普通はシングルが出てアルバムが出る、という流れが一番自然なんでしょうけど、アルバムの中に入ってた曲を、変則的な流れではあるけどシングル化出来たのは、ひとえにファンの人達の声があって実現できたと思ってるので、本当に感謝しています。

●さだまさしさんから提供されたこの曲、初めて向き合った時の気持ちは?
一番最初にさださんとお会いさせて頂いた時、特に私からはこんな詞を書いてほしいとか、あえて注文は一切しなかったんです。とにかくさださんに、私の歌を聴いて頂いた時のイメージを、さださんなりに膨らませて詞を書いて欲しくて。ちょうどその後、私自身が体調を崩して入院し、退院してしばらく経ってから「窓」の歌詞と出会ったんです。でも、さださんは入院の事をご存知なかったのに、「頑張りすぎないで でも決してあきらめないで」とか、歌詞の内容があまりにも少し前の自分と重なってて。「自分が入院した何日間は、この作品と出会うための何日間だったのかな」って自然に思えたのと同時に、すごく必然性を感じたし、驚きもありました。だから、与えられたこの命の歌を、自分なりに大事に大事に育てていかなくちゃと思ったんです。本当に「窓」には特別な思いがありますね。

●そんな特別な一曲と出会って、新たに見えてきた部分もあったのでは?
そうですね。全部に言えるんだけど、特に「窓」という一つの作品の成長が、いろんな意味ですごく楽しみだなと思うんですよね。私も無駄に年を取るのではなく、年輪のようにどんどん見てきたものや感じてきたものが層になっていって、その年にしか歌えない私の中の「窓」が、どんな違う表情を見せて残していってくれるのか。「10年後の『窓』はどんな表情を見せてくれるんだろう?」イコール「10年後の自分はどうなっているんだろう?」に繋がるんで、そういう意味では歌いがいのある作品だなと思います。


●今後この歌が、どういう形で伝わっていってほしい?
リリースしてしまえば、私の作品でありつつも、皆さんの作品に変わるって私は思ってるんです。本当に自分が経験したものじゃなくても、自分が見て感じたものじゃなくても、自分の中のリアリティがそこに存在してなくても、記憶のどこかに重ねられる部分を自分なりに見つけて、その作品を愛する事はいくらでも出来るから。だから、自分が書いてない作品にも素直に感動したり、涙したり出来るのかなと思うし。実際、今回「窓」をリリースして、「頑張りすぎず、どんな場所であれ大切な人といる所が自分にとっての故郷だと思えるようになったし、命の大切さも改めて知りました」という言葉を寄せてくれる人もたくさんいたんですが、それでいいなと思うし、とても理想的な愛され方ですよね。最初は、私も自分自身の入院と結構重ねてしまう部分があって、自分を心配した事もあったんです。それこそ、泣かずして歌えた事がないぐらい... でも、最近はとても良い距離でこの子と向き合えてるし、歌ったその瞬間から「誰かのために行っといで。また誰かの背中を押しておいで」って、親みたいな感覚で歌えてるから、このまま皆さんと進んで行けたらいいですね。

●3月には高知で久々のライブが行われますが、ファンにメッセージを!
高知でのワンマンは、2005年にツアーでお邪魔して以来なんです。今まで高知でやり続けてきたライブの雰囲気とは、ちょっと違う空気感の中でお届け出来ると思うので、ぜひ楽しみに、少しでも多くの人達に足を運んでもらいたいですね。