急速に進む高齢化の一方で、将来の日本を背負っていく子どもたちの減少など、少子高齢化への対策は、現代社会を維持していくためにも早急に取り組むべき課題。福の種合同会社社長木村徹さんは、高齢者には自立と自律を促すユニークなリハビリ、また子どもたちには生きる力を育む保育園という事業を通じて、この大きな課題に挑んでいる。
思わず目を疑った。それまで杖なしでは歩けなかった高齢者が、木村さんが営むデイサービスに約三ヶ月間通ったことで、颯爽と歩いている。これは木村さんが見せてくれた利用者の記録動画のひとつ。その利用者のはじけるような笑顔も印象的だった。
木村さんが福の種合同会社を設立し、リハビリ専門のデイサービス「アルコデイトレセンター」を開設して6年。「利用者が結果を出して喜んでいただけるサービスをしないと存在意義がない」。その考えにもとづき、パワーリハビリを筆頭に高知では珍しい手法のリハビリを取り入れ、目に見える結果を出してきた。利用者の喜びの声は徐々に伝播し、今や事業所は高知市内に3箇所、利用者は270人にのぼる。これほど支持されている同センターだが、元々、木村さんは介護とは畑違いの道を歩んできた。
東京の大学卒業後、大手電機メーカーに就職。しかし5年で退職。一念発起して司法書士を目指すも挫折。帰郷して様々な職を転々とするなか、ある病院の事務長代行として就職、医療界に足を踏み入れた。医療に携わるうちに「医者になりたい」という思いが芽生えるが、当時すでに38歳。現実的ではない。ここで初めて「医者がダメなら介護を通じて社会貢献したい」という自分の将来像が浮かび上がってきた。
木村さんが病院を辞して、介護の専門学校に入学したのが40歳の時。実習で老人ホームを訪問した際、利用者のおばあさんが発した言葉に衝撃を受けた。「こんなところに来たくない。帰りたい」。本来余生を楽しく過ごす場所の老人ホームが、利用者の立場に立っていない実態。「自分の親を連れて来たくない」。そう思った木村さんは、自ら介護サービスを創業することを決意する。「豊かな日本にしてくれた人生の先輩たちに、できるかぎりのことをしたい」。
アルコデイトレセンターで取り入れているのがパワーリハビリ、学習療法、ラフターヨガ、口の筋トレの4つの手法。これらは体、あたま、心をトレーニングして、老化や病などによって低下した身体的・心理的活動を向上してくれる。暮らしの中でその人の失われた機能を回復していく日常生活動作に対するリハビリテーションを行い、高齢者の自律と自立を目指しているのだ。
これら高齢者の支援と共に、木村さんが目指してきたのが、子どもたちへの支援。「少子化が進むなか、この国を担う子どもたちに、生きる力を与えたい」。2017年、保育を通して若者が安心して住み続けられる地域をつくることで、少子高齢化社会の中での地域活性化につなげようと「ふくのたね保育園」を開設。定員は19人という小規模ながら、保育士の目が届きやすため、きめの細かい保育が実践でき「安心して預けられる」と親御さんも喜ぶ。また「子どもとしっかり向き合える」と保育士からも好評だ。今年中にはさらに2つの保育園を開設する予定。その先には障がいのある子どもや就労に悩む人たちへの支援、さらにアジアでのリハビリ施設と保育園の開設も視野に入れている。とはいえ「今はとにかく人材がほしい。特に保育士さん」と苦笑いする木村さん。熱意あふれる木村さんのもとで働くことで、今の日本が抱える問題を解決する手助けになるはずだ。
福の種合同会社
●設立/2012年 ●従業員数/45名(男性6名、女性39名)
半日型のリハビリテーションに特化したデイサービス「アルコデイトレセンター」を
高知市内の愛宕山、旭、瀬戸の三ヵ所に開設。
また企業主導型保育園として「ふくのたね保育園」も運営する
高知県内の高齢者と子どもたちの支援だけでなく、アジアから研修生を招き実習を行い、
将来的には現地での支援施設開設も計画している。